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アラスカの厳しい自然と魅力的な人々【おすすめの本】

なんとなく日々の生活に疲れている、ゆったりした気持ちになりたい、と思ったときに読んでいる本をご紹介します。
読むと、ここを離れて大自然に包まれたい!と思うこともあるし、今の暮らしが大切だなと思うこともあります。
すべてのものに平等に同じ時間が流れている、私たちは今という大切な時間を生きている、そんなことを思い出させてくれる本です。

目次

『旅をする木』

『旅をする木』(星野道夫・文藝春秋・1999)
この本は、極北の地の野生動物、植物、人々を撮り続けた写真家・星野道夫さん(以下「星野さん」)のエッセイ集です。星野さんは文筆家でもあり、そして詩人でもあると私は思っています。

星野さんの文章は、まっすぐで、冷静で、温かいです。
あるがままの自然にただ寄り添う、星野さんの生き方そのものが伝わってくるような文章です。

自然の描写からは、土の匂いや風の温度を感じます。動物の描写には、物語があります。

人については、広く、温かなまなざしで語られます。
先住民や年長者など歴史を作ってきた人への尊敬の念、悲しみを持つ人との関わりを通して感じたことなど、人についての話も多いです。

1つの話は5~6ページくらいなので、すぐに読めてしまいます。どこから読んでも楽しめるので、目次を眺めて、気になるタイトルから読むのもおすすめです。
電車の中で、湯船の中で、お気に入りのソファで、お布団の中で。一編ずつ、ゆっくりと読みたいエッセイ集です。

もうひとつの時間

この本を開くたびに、必ず読んでいる一編があります。

降るような星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとして、その美しさやそのときの気持ちを、愛する人にどんなふうに伝えるか。こんな問いに、「自分が変わってゆくこと…その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思う」と答えた人の話から始まります。

私たちが生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が確実に流れていて、たとえば電車に揺られているとき、町でたくさんの人とすれ違うとき、どこかの山ではクマが歩いているかもしれないし、どこかの海ではクジラが飛び上がっているかもしれません。町で暮らす人の目線だけで考えていると、そんな当たり前のことを忘れそうになります。

日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。

『旅をする木』(星野道夫・文藝春秋・1999)

カリブーのスープ

狩猟民について書かれた話も興味深いです。

ケワタガモの大群を見たとき、その編隊の美しさに見とれる星野さんの横で、舌なめずりをしながら銃をかまえるエスキモーの人々。彼らの頭の中は久しぶりのダックスープの味で一杯で、この自然観の違いが可笑しかった、と星野さんは言います。

エスキモーのクジラ漁では、彼らが殺すクジラに対する神聖な気持ちに感銘を受けます。

自分自身が生きのびるために、他者を殺して食べる。近代社会の中では見えにくいことですが、狩猟民は最もストレートに、この真実と向き合っています。
狩猟は、さまざまな自然条件が重なって初めて可能になります。少しの条件の違い、偶然の重なり方で、狩猟の結果は変わってしまいます。
人々は生かされている、と感じます。

人間と自然との関わりを考えるとき、このような狩猟民の日々の営みの中には、ひとつの大切な答えがあるのかもしれません。

『旅をする木』まとめ

アラスカの自然、植物、野生動物、そして魅力的な人がたくさん出てきます。きっと、星野さん自身がとても魅力的なのだと思います。

大切な人を失った悲しみを持つ人の話も、いくつか出てきます。

自然や動物の描写がたくさん出てきますが、「自然保護」とか「動物愛護」という向きではありません。
自然を愛するのと同じように、星野さんは、人工的なものであっても夜景が好き、と言います。無数の町灯りは、人間の日々の営みであり、いとおしいものなのです。

星野さんのみずみずしい文章は、さまざまな想像をふくらませてくれます。
けれど、私の頭の中はとても小さくて、想像できるようで、できません。実際に見てみたい、感じてみたいと思ってしまいます。
600kgを超える大きなムース(ヘラジカ)を間近に見てギョッとしてみたい、そんなふうに思います。

私たちは「今」という大切な時間を生きています。
星野さんは、地球とか宇宙という視点で、「今」を見つめています。長い歴史の中の一部分だけれど、それぞれにとって、かけがえのない時間です。

厳しい極北の原野で、たくましく生きる人の生活は、自然の中でのんびり暮らすのとは違います。
それでも、この本を読むと、ゆったりした気持ちになるし、何か大切なものに気づくような感覚があるので、ぜひ読んでみてほしいです。

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この記事を書いた人

気に入った本を何度も読む性分です。エッセイと絵本が好きです。
私の好きな本が、どこかの誰かの好きな本にもなったら嬉しいなと思います。
もしよかったら、おすすめのエッセイや絵本を教えてください。

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